【前回までのあらすじ】
花屋に転職して一年。
私は適応障害で休職した。
休職中は、
吐き気、不眠、悪夢、
そして強い不安と戦っていた。
最初は罪悪感でいっぱいだったが、
休んでいくうちに、
自分が思っていた以上に壊れていたことに気付く。
山菜取りに行ったり、
両親とご飯を食べたり、
姪や甥と遊んだり。
少しずつ、
「人と関わること」
「体を動かすこと」
が自分の回復に必要だと分かってきた。
そして復職。
しかし現実は厳しかった。
出勤中は毎日のように傾眠状態となり、
運転中に事故を起こしそうになる。
職場にいても、
役に立っている感覚が持てない。
無力感。
居場所のなさ。
体の重さ。
私は少しずつ追い詰められていった。
そしてある日、
退職する意思を職場へ伝えた。
すると不思議なことに、
あれほど重かった心と体が、
少し軽くなったのだった。
今回からは、
退職が決まってから最後の日までの、
どんより愉快な日々を書いていこうと思う。
6月1日
退職まで、あと少し。
6月15日まで働いて、
その後は20日ほど有給消化をすることになった。
なんというか、
今の自分は社員でもなく、
かといって辞めた人間でもない。
皮一枚で繋がっている、
取れかけのおできみたいな存在だ。
職場にはいる。
でも、もう長くはいない。
そんな不思議な立場になった。
スタッフの皆は気を遣ってくれている。人に恵まれた良い職場だ。
—
今日は半日で上がらせてもらった。
病院で傷病手当の相談をするためだ。
退職後の生活のことも、
そろそろ考えなければいけない。
—
病院が終わって家に帰ると、
時計は3時を回っていた。
平日の昼下がり。
みんなが働いている時間。
私は家にいる。
それだけで、
少し罪悪感が湧いてくる。
—
本当なら今頃、
店で働いているはずだった。
みんなは働いている。
私は帰ってきている。
—
こういう時、
休職中にも何度も感じた感覚が戻ってくる。
—
「自分だけ休んでいていいのだろうか」
—
そんな気持ちだ。
—
どう過ごそうか。
少し考えて、
弓を撃ちに行くことにした。
—
後半はよく当たった。
25射くらいだろうか。
汗も少し出てきた。
悪くない時間だった。
—
弓を引いていて思った。
弓は瞑想に近い。
—
引いている間は、
的のことしか考えない。
—
矢をつがえる。
呼吸を整える。
引く。
狙う。
離す。
—
その瞬間だけは、
退職のことも、
仕事のことも、
将来のことも消える。
—
ただ、
弓を引くのをやめると、
また気持ちは落ち込んでくる。
—
不思議なものだ。
—
弓が問題を解決してくれるわけではない。
—
仕事の悩みも、
将来への不安も、
退職後の生活も、
帰ってくる。
—
でも、
少なくとも弓を引いている間だけは、
それらから離れることができる。
—
だから、
あれは運動というより、
瞑想なのだと思う。
—
休職してから気づいたことがある。
—
山菜取りもそうだった。
姪や甥と遊んだ時もそうだった。
ヒーローショーもそうだった。
ものづくりもそうだった。
そして弓もそうだ。
—
私は、
何かに没頭している時だけ、
未来から解放される。
—
仕事の時の私は、
ずっと未来にいた。
—
明日どうなる。
来月どうなる。
辞めるべきか。
迷惑をかけていないか。
—
ずっとそんなことばかり考えていた。
—
でも弓には、
的しかない。
—
だから少し楽になる。
—
今日は、
気分が良くなったわけではない。
問題も何も解決していない。
—
それでも、
半日働いて、
病院へ行って、
傷病手当の相談をして、
弓を25射引いた。
—
それだけで十分だった気がする。
—
今は、
人生を変えることよりも、
今日を無事に終えることの方が大事なのかもしれない。。


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